秋をとばしてしまったように、急に冷え込んだ10月のとある日。
平日の正午過ぎにも関わらず、私は窓を叩く雨音を聞きながら電車に揺られていました。
目指す先は、大学時代の友人砂糖さんに勧められた高円寺にある読書館です。
高円寺に降り立つのは恐らく初めてだったはずが、駅からすぐのアーケード商店街には見覚えある気がしました。
大学生の頃に高校時代の友人Kさんと遊びに出かけた吉祥寺が思い出されましたし、
あるいは昨年の夏に、Sさんとかき氷を食べた笹塚が頭の中に浮かんでいました。
商店街を少し歩いたのち、右の路地にある読書館へと辿り着きました。
深い緑色のドアにある覗き穴から館内の様子をうかがったあと、
ドアノブに手をかけゆっくりと扉を開くと、そこにあるのは非日常的空間。
くまのぬいぐるみが腰掛けている席や、机の上に大きな水槽の置かれた席などがありました。
広くはない館内をぐるりと一周した後、私は窓際の一番後ろの席に腰を落ち着けました。
机に置かれた小さな水槽の中を気儘に泳ぐ一匹の魚を眺めていると、
水槽の横にひっそりと佇み、静かに私を見つめる小さなゴリラに気づきました。
実は、Kさんは私をゴリさんと呼びます。
彼女がどうしてそんな呼び方をするようになったのか、今回はお話しませんが、
たまたま選んだ席に、不思議とご縁を感じ、少し嬉しくなってしまいました。
小腹を空かしていた私は、ココアとチョコブラウニーを注文しました。
ブラウニーが妖精の名であることを初めて知り、この甘いお菓子がより一層美味しく感じられたような。
お腹も落ち着いた頃、私は鞄から文庫本を取り出しました。
昨日購入したばかりの、森見登美彦氏著作『竹林と美女』です。
その文庫本には、大学生時代、Sさんが私に贈ってくれたブックカバーを着せていました。
ねこが描かれ、しおり紐の先端が肉球となっている可愛らしいものです。お気に入りです。
かわいいことは良きことなり。
窓を叩く雨音と、天井から馬穴に落ちる水音を聞きながら頁を捲るとあっという間に時間が過ぎました。
私という人間は、何か大変そうなことや苦しいことが目の前に立ちはだかった時には必ずその困難から逃亡して済ませてきました。
故に、根性だとか諦めない心だとか、チャレンジ精神といったものを一切持ち合わせてはおりません。
毎日、好きなものを読み、好きなものを見つめ、美味しいものを食べ、ゆっくり過ごしていたいと願うばかり。
そう、高等遊民になるか、さもなくば何にもなりたくないのです。
ああ、とかくこの世は生きづらい。