私とは、もう読まないであろう書籍が並べられた本棚を眺めては「自分はなんと素敵な文学少女でしょうか」などと勘違いをする阿呆です。
しかし古本市の神様なる存在を知った今、そのような悪癖は早々に唾棄し、我が書棚に虚しく寝かされている本たちを解放しなければと一念発起いたしました。
それから、まだ6月上旬であるにも関わらず体を溶かすような外の暑さとは反対に、とても寒々しい我が懐に温もりを与えんという目論見があったことを白状しておきます。
私はミントグリーン色の小さめな紙袋を携え、隣駅から歩いてすぐのブックオフへと向かいました。
可愛らしい紙袋には小説が4冊と1冊のエッセイ、そして1枚のブルーレイディスクが入っています。
入り口すぐの買取カウンターに持ち込むと、「査定に5分ほどお時間をいただきます」と告げられました。
待つ間、私は2階で小説を物色することとしたのですが、背表紙のタイトルに惹かれ1冊の本に手を伸ばしかけたその時、呼び出しアナウンスが流れました。
「番号札20番をお持ちのお客様、買取カウンターまでお越しください」
なるほどミイラ取りがミイラになるとはまさにこのことかと納得し、1階のカウンターへいそいそと向かいました。
得られた対価は百円玉2枚でしたが、また新しい出会いを生むための別れだからと思い、清算を済ませて足取り軽やかに店を出ました。
ところで、鞄に忍ばせやすいという理由から私の購入する本はその殆どが文庫本です。
そして私の言う「本」とは専ら小説を指します。
時たま現実逃避のために読書をするといった具合の私は作家に詳しくなく、大抵3つの方法でどの小説を購入するか決めてしまいます。
1、表紙が魅力的である。
2、何となく知っている作家名・作品名を頼りにする。
3、好きなものに関連している。
(ちなみに、1冊だけ入っていたエッセイは知人に頂いたものです。その方には「返却は不要。ブックオフに持ち込んで良し」と言われ譲り受けました)
この3つの中で、私が最も頻繁に取る選択方法が1番です。
この方法によって、私は素敵な出会いを果たしたのでちょっとお話させていただきますね。
時は遡り、巷では制服の可愛い学校として少し有名な高校へ電車に揺られながら通っていた頃。所謂、華のJKとやらであった時。
休日に、自宅の最寄りから2駅隣にある駅直結型の大型ショッピングモールへ、友人と出かけた時のことです。
友人とは映画を見る約束をしていたのですが、上映まではまだ少し間があり、1階の本屋で暇を潰そうということになりました。
そこで私の目にとまったのが森見登美彦氏の「ペンギン・ハイウェイ」です。
少年と女性とペンギンが描かれ、素朴な愛らしさを含んだその表紙に惹かれました。
早速裏表紙の粗筋を読んでみると「おっとこれは大変面白そうだ」と思い、私は友人に声をかけます。
「この本面白そうだから買ってくるね」
すると友人は「表紙だけで選んだんでしょう」と言いました。
図星でした。
普段から無駄遣いが多くそれを改めたいと考えていた私はこの言葉を聞いてハッとし、購入を断念しました。
この頃はまだ、本の選び方というものが私の中で定まっていたなかったことも多分にあるでしょう。
そして時は流れ、大学二回生になったある日のこと。
この頃には自分の中で本を選ぶ基準3つが固まっており、「何か良い出会いは無いかしらん」と一人本屋を右往左往していました。
すると中村佑介氏のイラストが表紙となった森見登美彦氏の著作「夜は短し歩けよ乙女」を見つけました。
残念ながら私は森見氏の名前を記憶に留めておらず、かつて諦めたあの小説の作者が書いたものだとは全く気が付きませんでした。
本屋大賞やら直木賞やらでそのタイトルを耳にしたことはあったものの、天邪鬼な性格ゆえ「みなが良いと言うなら私は読みません」などと謎の意地を張って遠ざけていた作品です。
ここで惹かれたのも何かのご縁と思い、麗しき黒髪の乙女が表紙を飾るその1冊をレジカウンターへと持って行きました。
帰宅した私は、早速自室で小説を読み始めると「これはなんと面白いお話でしょうか」と夢中になってしまいました。
勢いで読み終えると、私はもう彼の文章の虜になっていたのです。
彼の作品を片っ端から読み漁りたいという衝動がムクムクと私の胸の中に湧き起こりました。
そうして森見氏の作品タイトル一覧に目を通した私は「アッ」と思わず声をあげました。
作者名は覚えていなかったものの、そのタイトルを見た途端にかつての記憶が鮮明に蘇りました。
数年の時を経て、遂に私は「ペンギン・ハイウェイ」を迎え入れることができたのです。
そしていざ此方の作品も読み始めてみると、頁を捲る手が止まりません。
その他にも気ままに気になった小説をいくつか読んできましたが、「ペンギン・ハイウェイ」が私の一番好きなお話という地位を決して譲らなかったことからも、私はこの出会いを一方的に運命だと感じて仕方ないのです。
劇的な再会を果たしたからこそ、そう思えるのかもしれませんが、そういう出会いも含めて本とは楽しむものであると私は考えるのです。
この世に溢れる素敵なお話全てに感謝し、皆々様に素敵な出会いがあらんことを願って、ここで筆を置きます。